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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)14148号 判決

原告 東京昼夜信用組合

理由

一  消費貸借について

1  《証拠》によれば、被告は訴外三共図書株式会社から別紙記載の約束手形(甲第六号証の三)の振出し交付を受けたうえ、昭和三二年一〇月一〇日その「割引」を原告に依頼し、金額九万六五〇〇円から日歩五銭の割合による支払期日まで六六日分の「割引料」金三一八五円を差引いて交付を受け、右手形を原告に白地裏書譲渡し、原告は右取引につき「割引手形元帳」(甲第六号証の二)にその旨記載してあることが明らかであり、いわゆる手形割引の方式による取引として行われたことが認められる。

2  そして、いわゆる手形割引の本質は有価証券である手形の売買であると解すべきであるから、個々の具体的取引において特に別異に解すべき要素がないときは一般的には手形割引は手形の売買と認めるのが相当である。

3  しかしながら、本件においては、成立に争いのない甲第六号証の一(手形取引約定書)によれば、借主が手形借入れ又は手形割引を依頼したときは、そのつど手形に相当する借入金債務を負担したものとして手形又は貸金債権のいずれによつて請求されても異議ない旨を定め(第一条)、他にも借入金債務が成立することを前提とする規定をおいており、更に《証拠》によれば、被告は前記割引依頼の当日原告に対し金額九万六五〇〇円、支払期日昭和三二年一二月一七日とする約束手形(甲第六号証の五)を振出し交付しており、前掲《証拠》によれば、被告は昭和三三年四月一二日定期預金満期により金一万二二九二円が「割引高」=「残高」欄記載金額九万六五〇〇円に対する「決裁額」として記入され、「残高」欄にこれを差引いた金八万四二〇八円が記載されていることが認められ、他に右認定を動かす証拠はない。

右認定の事実から考えると、本件においては、手形割引の形式をとりながら、なお、原被告間に前記手形金額九万六五〇〇円のうち原告主張の金八万四二〇八円につき弁済期昭和三二年一二月一七日、利息日歩五銭とする消費貸借がなされたものと認めるのが相当である。

二  消滅時効について

1  右貸付金債務について商法第五二二条の適用があるかどうかについて検討する。

(一)  原告は中小企業等協同組合法にもとづく信用組合であつて、商行為を業とする商人ではなく、本件貸付行為も商行為でないから、原告の右貸付行為が商行為であるとして商法第五二二条を適用することはできない。

(二)  しかしながら、商法第五二二条は商法第三条により債務者のため商行為であつて、債権者にとつて商行為でない一方的商行為の場合にも適用されると解すべきところ、被告が明正社印刷所の商号で印刷業を営む商人であることは当事者間に争がなく、その行為は営業のためにする行為として商行為というべきであるから、本件については商法第五二二条の適用を受け、消滅時効の期間は五年と解すべきである。

(三)  原告主張のように、現行の中小企業等協同組合法においては、旧産業協同組合法第五条のような商法準用規定がないから、主として商人たる地位に直接関係し、あるいは商人のなす商行為に関する商法の規定を協同組合等に類推すべきであるという一般原則は認められないが、一方につき商行為であり、他方につき非商行為である行為等に対する適用法規の確定に関する商法第三条は右に当らないから、原告の取引の相手方の行為が商行為であることによつて生ずる商法第五二二条の適用を当然に妨げるものとは解されない。

(四)  よつて、原告の被告に対する本件貸付金の債務は前記弁済期である昭和三二年一二月一七日から五年を経過した昭和三七年一二月一七日を以て消滅時効が完成し、右債務は消滅したものというべきである。

三  以上のとおりであるから、原告の被告に対する請求は理由がないのでこれを棄却

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